つばめの中国便り11&12月号

この便りは、知人に近況報告するために配信するものです。内容の一部は最近のブログからビックアップしています。今年も残り少なくなりました。北京は12月に入ったとたん、気温がグーンと下がり、一気に真冬に突入しました。気候の恵みを存分に生かして、この頃は、台所のベランダの窓を開け、天然冷蔵庫にして食料を保存しています。間隔が開きましたが、最新号の便りをお届けいたします。なお、知人の弘美人さんのブログからもご覧いただけますhttp://gamaguchi-jyuku.seesaa.net/
【今月号構成】
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<Opening  一年ぶりの北京、どこが変わった?>
第一部 -新コーナー立ち上げ
    【奥運来了(Olympicsがやってくる♪)】
     ■英語表記の浄化運動、開始■
第二部 -つばめ見聞録
    ①11月18〜24日、日本映画週間開催
     ◆観衆の拍手&松坂慶子さん取材
     ◆『銀河鉄道の夜』、ピュアな美に心打たれる
    ②日中レコード業界初の商談会、微妙な「温度差」
    ③CCTV新作ドキュメンタリ『大国崛起』の日本描写
<Ending - 最近の取材ノートから>
    ▲▽仙台から北京へ 健康に良い、美味しい寿司を故郷に▲▽
      〜寿司職人 姜炳昇さん(建外SOHO・江戸前寿司)〜
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職場の日帰りツアーで、今、流行りの拓展訓練(Outward Bound)に行ってきました。場所は北京郊外・平谷県の静かな山間にあり、チームワークの大事さを体感した良いトレーニングでした。
★「Outward Bound」とは、世界27ヶ国に35校のネットワークを持つ非営利の世界的冒険教育機関です。登山、ロッククライミング、マウンテンバイク、沢登りなど様々な冒険(野外)活動を通して、自己の可能性やあり方、また、他人を思いやる心など、豊かな人間性を育むことを主な目的に活動を続けています。
中国に入ってきたのは1995年。協力し合って何かをやり遂げることによりチームワークの意識を強化し、職場の雰囲気を改善するのに効果が期待されているため、ここ4、5年前から、じわじわと人気が出て、最近は会社の社員旅行代わりに良く利用されています。現在、北京でOutward Bound訓練を提供する会社は数百社に上るとも言われています。訓練の内容は登山、陸上、水上などを全部含めると、数百種類に数えられるそうです。


Opening                          
【 一年ぶりの北京、どこが変わった?】                           

多少変化を感じました。キーワードは、「上昇中」です。
■タクシー■
運賃が値上がりしました。
2006年5月20日から、1キロあたり1.2元や1.6元から一律2元に。時間計算の苦手なつばめは、タクシーを良く利用しています。出かけるだけで、財布の中身が凄まじい勢いで薄くなっていくのを実感しています。
知人には、「前ほどたくさん乗れなくなった」という人や、「マイカーを持つよりは経済的だから、特に気にしていない」という人、それぞれいます。
一方、タクシーの運転手たちも「以前とさほど変わらない」と気にしない人もいれば、「値上げするべきでなかった。乗客が減って、却って儲けも減った」とぶつぶつ言う人もいます。勤務先では、以前は交通費の請求は地下鉄やバスなどの公共交通に限っていましたが、現在は取材や夜勤の場合、タクシー代の実費請求が認められるようになりました。喜ばしい変化です。


■不動産価格■
またも急激に値上がりしました!
悔しい!二度とない大きな儲けのチャンスを逃してしまいました。日ごろの世間話にも上っていましたが、つい先日、こんな記事が出ました。
  「今年第三四半期(6月〜9月)、北京市の普通住宅の先物市場の取引価格が7825元。今年の第一四半期に比べ、一㎡あたり約千元値上がり、13%の増幅だった…」(2006年11月29日付け『北京日報』)
 3年前の春、私が住宅を買った時、北京の不動産価格はまだ4456元に過ぎませんでした(当時は高いと思いましたけど)。こんなことになるなら、ローン返済をこつこつせず、有金をはたいて、2、3軒買いだめしておけば良かった。今頃左団扇で、資産家になっていたはず。ああ〜〜〜!
先日、たまたま乗ったタクシーの運転手。すこぶる不動産投資に熱心で、「お客さんの家、今売れば、一㎡7000元だよ!」と、熱弁を振うのです。「それは嬉しいわね。けど、売ったら、また高いお金を出して、新しい家を買わなきゃいけないでしょ。結局一緒かぁ」。こうして、七色の夢の風船はすぐにはじけました。
なお、住宅価格の上昇は北京に限らず、実家の安徽省の小さな町でも同じ傾向をたどっています。両親が2002年年頭に、1㎡900元で購入した家は、現在、2300元に値上がりしたと言います。父の同僚に、同じ団地で投資用に住宅を購入した人がいましたが、この夏、一日も住んでいない家を売りに出し、4年間寝かせただけで、投資した金額と同等のお金を入手しました。投資に疎い両親はこれに刺激を受けたらしく、現在、まもなく着工予定の団地で二軒目の住宅を買おうかと日々、不動産投資の夢を見ているようです(笑)。

 
その他諸々
●携帯電話●
種類がたくさん増えました。
価格も全般的に安くなり、千元を割った機種も多く発売されています。料金プランは豊富になり、上手に利用すれば、毎月の通話料は以前の半額以下に抑えることができます。(写真はつばめの新携帯。今度は国産ブランドにしました)
ただ、残念なことに、私がずっと愛用してきた日系メーカーは中国市場で業績がふるわず、11月半ば、最後まで頑張ったNECが中国市場での販売業務を撤退すると発表しました。残りはソニー・エリクソンという合弁ブランドだけです。王府井の携帯ショップの店長さんの話では、「一番売れているのはノキアで、中国国産ブランドは30%のシェアで安定している」そうです。


 ●自動車保有量●
まだまだ増え続けているようです。
10月まで、北京市の自動車保有量が280万台。昨年末よりまたもや20万台増えました。その余波は、胡同の景観にまで押し寄せています。急ピッチに進められている都市開発で、胡同自体、激減していますが、運よく破壊の魔手を逃れた所でも、実際に入ってみると、路上駐車が目立ち、ゆったりとした昔の景観は見られません。車社会がここまで浸透したら、昔同様の胡同生活を継続させるのは、やはり無理かもしれないと思わざるを得ません。


●テレビ●
デジタルの足音が聞こえてきました!
つばめの団地は、運よくと言えばよいのか、デジタルテレビのテスト団地に指定されたようです。ある日、突然、コミュニティ広場にテントが張られ、しかるべき証明書を見せれば、無料でセットトップボックスがもらえるというキャンペーンが始まりました。実際に使ってみた結果、デジタルテレビと言っても、枠組みだけで、中身の充実はまだこれからだということが良く分かりました。とりあえず、テレビで番組表をチェックできるようになった分だけ、便利になりました。ちなみに、中国でデジタルテレビは2002年上海で初めて試行され、その後、青島、仏山(広東)などの都市でのテストケースを始め、都市部を中心に全国へ展開されつつあります。アダプターのセットトップボックスの市場価格は600〜1000元と高目です。


●地下鉄●

駅構内のエイズ抑制の公共広告が以前にも増して目立っています。地下鉄車内での物乞いは、以前と変わらず多いし、逃げ場のない車内でスピーカーを使って大声で歌う人までいるのには、待ち伏せされたようないやな感じがして、個人的にはこれだけは同情できません。またエレベーターの、右側に並んで、左側は急ぐ人のために空けようというキャンペーンはまだ継続しています。理解し、習慣を守る人が少しずつ増えているようで、これは嬉しいことです。


●日本からのお客さん●
戻ってきました!
一時期、たいへん寂しかった日本人観光客の姿を、北京で多く見かけるようになりました。写真は10月下旬の友誼商店。熊本からの修学旅行ツアー。旅行社勤めの知人の話では、「今春以降、日本からの観光客が徐々に増え、とりわけ、安倍さん訪中後に、大きな伸びを見せている。現在、SARS前の最も良い時期に近いレベルにまでほぼ持ち直した」。一時期はテロにSARSにデモに鳥インフルエンザと連続パンチ。知人は時間を持て余して、北朝鮮を旅行したりして暇つぶしをしていました。再び大わらわ状態に戻ったようで、「おめでとう」&「お疲れ様」です。


●都会を生き抜く人々●
 一年ぶりに北京での生活を始めたら、一年前に自分は騙されたことに気づきました。いる間に、申請したIP電話サービスが利用できなくなりました。プリペート式なので、残高はまだ400元ほど残っているはず。留守の間、「使用期限ない」ことを確認し、一年間休止の手続きを済ませました。しかし、いくら開通しようと思っても、だめでした。もらった領収書に書いたお客様センターの番号に電話をかけたら、「お客様センターでない!」ときっぱり断られました。電話会社の本社に問い合わせ、調べてもらった結果、「お客さんの加入記録データは一切ない」、そして、領収書の発行元の子会社はすでに2年前に名前が変更したとのことまで言われ、驚きました。
 当時は、戸別訪問で、にこにこした顔の制服姿の青年2人が立っていました。良い感じでIP電話加入後の利便性を説き、信頼できそうな感じだったので、加入したのに。言葉になまりがあるので、地方から来たことは分かりましたが、その「好青年」のはずの彼らが、詐欺師だったなんて…
 同僚やコミュニティのその辺のおばさんに話したら、「何だよ、今更。この手の詐欺はテレビやラジオでとっくに報道されていたのに。」、とまったく同情心を示してもらえませんでした。そして、「とにかく、家をノックされたら、何があっても『NO』と言うことだ」と忠告まで授けてくれました。
 他の人が騙されないように、一応、警察のところへ被害届を出しに行きました。人民の警察は決して態度が悪かったわけではないのですが、「領収書の真偽の判断は我々ではできない。先ずそれを証明する必要がある。その証明はあなたのほうでやってもらわなくちゃならない」。あっけなく終わりました。


●鍵開けサービス
規範化作業できるようになりました。
 家でホームパーティーを開く前日の夜に、最悪のことが起こりました。出かける時、うっかり鍵を抜くのを忘れたまま、ドアを閉めてしまいました。事態の深刻性を認識しないまま、「オフィスに合鍵があるので、別に困らない」と思い、いつものように出勤しました。しかし、夜帰宅した際、この鍵は、中から「キー」をさしたままだと、外から開けられないというすばらしい設計になっていることを初めて知りました。急遽、鍵開け会社に電話しました。「240元、30分以内でいく」とのことになりました。
来てくれたのは、若いお兄ちゃん2人。「早い場合は5秒、遅い場合は1時間」と自称した彼らは、私の家の門を見ると、「これは開けにくいメーカーだ」と言いました。とうとう一時間かかりました。合鍵があってよかったです。写真のように、合鍵が短く磨かれた後、元の鍵の半分以下に細く加工され、それに細長い錐のような針金を入れて、無事に鍵を壊さずに開けることができました。
 ところで、鍵開けサービスの広告は一時期、人力車の後ろでよく見かけましたが、今年半ばから正規の会社はすべて公安局での登録が義務付けられ、作業員も全員登録制を導入しました。そのため、鍵開け屋さんが来たのとほぼ同時に、公安局の人も駆けつけてくれました。
 ところで、お兄ちゃんたちは仕事に真面目で、当日は私で6人目の客だと商売繁盛のようです。帰り際に、「今度また何かあれば、直接ぼくに電話ください」とサービス精神満点でした。お気持ちはありがたかったけど、もうこんなことで二度と電話したくはありませんよね。
そうそう、北京在住の皆さんのいざという時に備えて、
電話番号だけを書いておきましょう⇒TEL:1600100
 


第一部 ■新コーナー立ち上げ!北京五輪の進み具合に、これからも目が離せません

■奥運来了♪ 【オリンピックがやって来た】       
<■英語表記の浄化運動、開始■>


笑える笑える!
 「Face Power Restaurant」 「A Time Sex Thing」 「Idea Noodles」…
どれも北京の街角で見かける英語の看板です。言いたいこと、お分かりですか?
原文で確認してみましょう。それぞれ、「〜面粉館」(〜麺類レストラン)、「一次性用品」(使い捨て用品)、「意面」(スパゲッティ・パスタ)となっています。訳文は大胆というか想像力逞しいと言うか…とにかく、これじゃ意味がまったく伝わりません。中国語の分からない外国人が、英語看板を頼りに自力で、北京で行動しようとすれば、戸惑いが多すぎます。これだと、北京のホスピタリティーが疑われます。
 半年ほど前、CCTV・中央テレビは週一回の新番組・「奥運来了」(オリンピックがやってきた)を発足させました。今週の番組で、上記のような「楽しい」英語の看板を取り上げたのです。2008年が近づくにつれ、今年に入ってから、英語標識の間違いを正そうという運動が高まってきました。この夏、北京市が一般市民向けに行った「英語のミスを指摘しよう」運動では、196人の市民から千ヶ所以上のミスが指摘されたようです。北京市政府は今、専門家チームを立ち上げて、公共の場の英語標識の規範化基準の制定を急いでいます。言葉が面子に関わっているという認識が、ようやく生まれてきたようです。外国語専攻の人間にとっては、喜ばしい意識変化と言えます。と同時に、自分の責務も強く感じ、勢いに乗じて、英語のみならず日本語や他の言語標識もついでに整理し、全国規模でこの動きが広まるといいなと期待しています。 

北京ではないのですが、これは、先月、放送局の旅行で山西省へ行った時、道教の名山の 綿山で撮った写真です。

余談ですが、英語のミスを一生懸命指摘している英語圏の人がいますが、日本の皆さんも中国でおかしな看板を見たら、ぜひ指摘してください。お願いいたします。

北京五輪のマスコット「福娃」、英語名から中国名へ。一年前に発表した時は「Friendlies」と名づけられましたが、今年10月から「Fuwa」に改めると北京五輪組織委員会が正式発表しました。


第二部   つばめ見聞録 
▲▽11月18〜24日 日本映画週間開催▲▽
■中国人観客の拍手&松坂慶子さんイメージ

11月18〜24日、日本映画週間が北京で開催され、日本各地でロードショー中の新作映画を含めて、11作品、計22回放映されました。『スパイゾルゲ』の篠田正浩監督、CGアニメの加賀谷穣監督(『銀河鉄道の夜』)を初めとした監督陣や女優の薬師丸ひろ子さん、松坂慶子さんなどの映画人も応援に駆けつけ、田壮壮監督を初めとする中国の監督、北京電影学院の学生及び一般観客たちとの交流会が行われました。
開幕式で、日本の来賓が紹介され、中国人観客に馴染みの作品が読み上げられる度に、会場にはうなるように拍手が響き渡り、観客の表情がリアルに伝わってきたように思いました。海賊版ファイル交換ソフトによる不法ダウンロードなどの手段も含んではいますが、数多くの日本の映画やドラマが中国で大勢に見られています。これで本物の作り手と対面したことになります。「会えるのをずっと楽しみにしていたよ」と言っているような拍手に聞こえました。
電影学院で、田壮壮監督との対談が終わった後、松坂慶子さんにほんの10分ほどですが取材できました。たいへん気さくな方で驚きました。名優ぶることなく、自然体でまわりのすべての人に接していて、質問を聞こうとした学生さんにも、ごく自然に自分のマイクを差し伸べたしぐさが印象に残りました。「12歳と15歳の子どもの母です」と、テレビカメラに向かって、バッグから携帯電話を出して、顔を綻ばせて皆に写真を見せてくれました。声もたいへん若く、ゆっくりとした口調でした。CCTV記者の、「お顔の中で、一番お気に入りのチャームポイントはどこですか」という愚直な質問に、「〜〜んんん、〜〜ああああ、〜んんん」といやな顔は見せなかったが、首をひねって角度を変えながら、話の内容も変えようとしていた松坂さんに、こっそり笑えました。どうせ年をとるなら、松坂慶子さんのように美しく取りたいものです。



■◆ピュアな美に心が震えた、『銀河鉄道の夜
◆■

 全CG作品の『銀河鉄道の夜』のあまりの美しさに心が震えました。ピュア過ぎて、美し過ぎて、綺麗過ぎて…果たせなかった恋のように、物哀しいムードに浸りました。
想像の中のきれいさだって、見える形にできる。しかも、自分の想像よりも遥かに色が豊かで、鮮やかで、ダイナミックに再現されている。今回の映画がこのことを証明して見せてくれたと言えます。花巻で宮沢賢治の童話村を見学した時も同じ感覚に襲われました。空想を現実にするすばらしい技に敬意を表します。
童話村は20分ほどで一巡できてしまう幻想的な室内空間であったのに、今回は映画を見ながら、小一時間の心しびれる旅ができました。ぼんやりとした明かりに照らされ、揺れ動く草花、ゆらゆらした透き通った水、無限の想像をもたらしてくれる満天の星、来し方も往く方もはっきりしない小さな列車、車内は賑やかそうなものの、誰一人、人間の姿をしていない名状しがたい雰囲気に包まれていました。
監督の加賀谷穣さんがゲストとして、閉幕式の壇上に立ちました。
「10歳の時、『銀河鉄道の夜』を初めて手にした。繰り返し読みながら、頭の中で風景を想像していた。そのため、星に興味を持ち始め、絵を書くようになった。今の自分があるのは、原点をたどれば、すべてこの本との出会いにあった」と振り返りました。
「過去、現在、未来に渡って、変わらないものがあると信じている。それは愛、正義、生命、自然の美しさ、宇宙の真理だ。これらをテーマにした作品なら、どこに行っても交流ができる」と信念のあふれる挨拶でした。今回で三度目の中国になる。毎回来る度に熱狂的なファンたちに取り囲まれるため、「すっかり中国が好きになった。チャンスがあれば、中国の様々な風景を見てみたい。そして、それをいつか作品の中に描いてみたい」という。まだ30代の若さ。「決して怒らず、いつも静かに笑っている」という穏やかな表情で、伝えたいメッセージを短い表現で分かりやすく、はっきりと訴える。
来場者の中には、インターネットで日本映画週間開催の情報をみつけ、さっそく入場券を購入して、退勤後、駆け足で地下鉄を乗り継いでやってきた20代半ばの女性がいました。「何故来たの?」「だって、ナレーションが桑島法子さんだもの」。宮沢賢治のことも日本語も特に勉強したわけでなく、好きな声優にいざなわれて来場した熱いファンもいました。
日本では、今夏完成、上映した映画でした。封切に伴い、池袋のプラネタリウム対応映画館で70日間放映したところ、一館だけで5万人を動員したという記録的な数を作りました。日本人の職人魂が滲み出る「美しさ」を極めた作品は、来年1月、北京の天文館で放映されることになっています。
ピュアな美しさを求めてやまない。『銀河鉄道の夜』はひょっとしたら日本人の美意識そのものかもしれないとも思っています。


▲▽日中レコード業界初の商談会、微妙な「温度差▽▲

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11月下旬、北京市内のホテルで、「日中音楽産業発展論壇」が開催され、両国の政府関係者、レコード協会、著作権団体及び30社ほどのレコード会社が参加しました。フォーラム席上、日本のレコード会社8社と中国のレコード会社9社がそれぞれプレゼンテーションを行い、その後、中日音楽産業界交流の初の試みとして、1対1で商談する場が設けられました。
概して、活発な雰囲気で、盛り上がった刺激的な会だったと言えます。しかし、細かく見てみると、双方の意気込みに微妙に温度差があったことも否めませんでした。中国レコード各社は、相次いで、自慢のコンテンツをPRしていましたが、彼らは同時に、今現在、日本で最も人気のある、最先端のコンテンツに接することができるという期待を胸にやってきました。しかし、日本サイドの出したコンテンツは、どちらかと言いますと、「中国市場ならこういうのが良いのでは」という、総合判断に基づいて選別されたものが多かったように見えました。不適切を承知で例えれば、かつて中国進出で現れた日本産業界の態度とどこかに似通うところがあると思われても、おかしくないものでした。
もちろん、これには、中日両国のビジネス環境の格差が一番の原因と言えます。中国では、海賊版率が95%に達するとも言われ、また、インターネットでの不法音楽配信もまかり通っており、権利侵害が深刻な問題となっています。日本と著しく違うところは、レコードの発売だけで利益を得ようとするビジネスモデルは、今の中国では成り立ちません。業界筋も「CDは、出した枚数分だけ、損が増えていく。CD発売での利益は期待していない。アルバムはあくまでアーティストの総合プロモーションの一環にしか位置づけていない」と証言しました。いずれにせよ、中国側関係者によれば、「CDパッケージの形だけでの中国市場進出は、今の中国の実情から見ると、現実的ではないと言えます。
一方、日本は世界有数の超大規模な国内音楽市場を有しています。CDパッケージの売上げでは、全世界の15%にも達し、昨年、音楽産業の売上総額4,565億円のうち、80%がCD形態のオーディオ・パッケージで占められていました。健全な市場環境で業務展開してきた日本サイドは、往々にして他国でのビジネスも当然、自国と同じモデルで展開していくことを想定して、リサーチを行いがちです(ある程度、当然な態度でもあります)。しかし、その姿勢が、中国サイドの目には、「中国マーケットを把握できていない」というふうに映り、「そんなら、私たちのほうで提案させてもらおう」、と大胆な提案を出して、日本側を誘い込もうとしたら、「ビジネスができなくても、交流を通して、日中友好を促進することも大事」と、今度は日本側が逃げ腰で、微妙にかみ合わない場面が見られました。
一方、不備な点が多々あったとは言え、中国の音楽産業界で、最近、注目に値する変化が起きています。04年末から、携帯電話限定の「シングル曲初公開」(手機首発)などの新しいビジネスが台頭し、有料音楽配信の売上が急増しています。2005年度の売上は、対前年比60%増の約28億元に達しました。また、知財保護の法整備などにおいても、新たな動きが見られました。7月、ネット上で配信されるコンテンツの著作権を守るため、『情報ネット配信権保条例』が発表され、さらに、最近、業界の反発に遭いながらも、国家版権局はカラオケ版権使用料支払い試験的実行に踏み切ると宣言しました。
この一連の流れを、中国のレコード会社・竹書房文化の沈総経理は、「これで、中国の音楽ビジネスが、ようやくスタートラインに立った」と楽観的に見通しています。また、百年の歴史を誇る中国レコード業界きっての老舗・チャイナレコードのゴン副総経理は、「中国はめまぐるしいスピードで変わっている。我々の作り出したジャンル、市場で受け容れられるジャンルの幅もたいへん広くなってきた。日本の同業者は中国市場に進出する意向があれば、先ずはこの点を十分理解していただく必要がある」と語りました。
とは言いながら、初めて開催された今回の企画の意義を双方が口をそろえて肯定し、さらに、次回以降の継続的な開催に期待を寄せました。ちなみに、中国レコード会社9社の紹介は、それぞれ個性が異なり、猪突猛進している今の中国の様々な顔をリアルに反映しており、個人的には大変面白かったです。
もっとも、日本のレコード会社の中には、JVC社のように「海賊版に負けていられるもんか。CD販売のみでは差がないかもしれないが、アーティストたちを連れて、中国でコンサートを開くような企画は、我々しかできない仕事だ」と意気込みを見せている会社もありました。いずれせよ、本気で中国市場に進出しようと考える日本のレコード会社にとっては、日本でのやり方をそっくりそのままではなく、中国に適したビジネスモデルの創出が、求められるところでしょう。
いずれにせよ、音楽産業での交流はビジネスのみならず、文化の相互理解、国民感情の潤滑油的役割も期待されているため、今後の動きに注目したいです。



▲▽CCTV新作ドキュメンタリ『大国崛起』の日本描写▽▲

 11月下旬、とても驚いた番組がありました。CCTVのドキュメンタリー・シリーズ『大国崛起』(大国の浮上)でした。12回シリーズで、ここ500年来、相次いで、「大国」として浮上してきたポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、ロシアとアメリカの九カ国にスポットを当てて、その栄えた過程と理由について分析を加えた作品でした。
 私がたまたま見たのは、「イギリス」の紹介でした。イギリスの近代史について、高校までの私の教科書や中国で制作した映画作品などでは、技術面では産業革命をもって人類の発展に貢献したものの、文明の仮面をかぶりながら、他国を略奪し、世界中で植民地を広めてきた植民地主義者で、弱肉強食で、「八国連軍」の代表格である西側列強というイメージが強くありました。
 しかし、このドキュメンタリでは、イギリスの「海賊王」としての側面を言及しながらも、それを批判的な目で見ることなく、むしろ、イギリスは後発国として、いかにしてスペインを勝ち抜き、海上の覇権を勝ち取ったかに焦点を当てていました。言い換えれば、イギリスを批判すべき「帝国列挙」的な位置づけではなく、浮上してきた「大国」として受け止めているのです。以前と比べれば、現実的な視点に立って歴史と向き合うようになったように思います。
 さらに、そのイギリスが成功裏に浮上した理由について、「エリザベス女王が自ら君主の権限に制限を設けたこと」や、「民主主義制度の充実を図ってきたから無敵になった」と肯定的に見ていました。以上の二点だけで十分です。私の目の前に、斬新な歴史観が登場したように思えました。個人的には、この企画を大変評価したいです。
ただし、期待を抱いて、日本をクローズアップした第七話・『百年維新』を見ましたが、結果は失望しました。開国を迫られたところの描写は悪くなかったと思いました。そして、日本の近代史を取り上げた作品にしては、侵略戦争の歴史がメインを占めないという点も、これまでの作品と比べたら、飛躍的な変化だったと言えます。ただし、このドキュメンタリでは、「軍国主義」を日本の伝統文化の糟と位置づけ、「軍国主義」はまるで独自な人格を持ち、自らの意思で成長するとでも言いたげなところに、多少ながら違和感を感じました。また、「西洋化の不徹底でよくない伝統がぶり返した」という表現には、西洋化がすなわち近代化、すなわち「大国への道」という固定された潜在意識を感じました。一番不満だったところは、国際情勢と切り離して、日本の戦後の経済成長を見ていた点でした。エンディングに、「1968年、明治維新百年目の年、日本はアメリカとロシアに次いで、世界三番目の経済大国に躍進した。日本が大国になったというシンボルチックな出来事だった…」というまとめ方になっていましたが、日本は何故、経済成長を実現したかについて、その原因を探る時、「100年前の明治維新でしっかりした基礎が築かれたからだ」という安易な見方しか出していませんでした。第二次世界大戦後のダイナミックな国際政治の力比べへの視点が完全に欠落していたのです。残念ながら、「日本」(『百年維新』)を見た時、全般的に斬新な感じを受けませんでした。
 そもそも、「列強」にせよ、「大国」にせよ、ある国の浮上の過程は、たかが45分のテレビ番組で究明できる課題ではありません。このハンディーを背負いながらも、製作者が世界各国の現地取材を初め、精力的に取り組んできたのは、今の中国に一番必要なものは何か、これについて、視聴者に問題提起をしたかったという真意があったからではないかと思います。そういう意味では、ドキュメンタリーが不完全ながらも、考える素材を提供し、議論を広めることができたと思っています。
(『大国崛起』HP:http://news.xinhuanet.com/ent/2006-/25/content_5373615.htm




Ending  最近の取材ノートから
 ■仙台から北京へ 健康に良い、美味しい寿司を故郷の人に
〜『江戸前寿司総経理兼店長  姜炳昇さん〜


 1990年代半ばの北京。日本料理はまだ一般市民の生活と無縁な存在だった。ある冬の日、朝陽区の日本食店「青葉」に、珍しくも中国人親子が入ってきた。「誕生祝いにほしいものは?」と父親に聞かれ、少年が「日本料理が食べたいな」と答えたからだった。「青葉」は少年の家から至近距離にあったのに、それまで一度も入ったことがなかった。
現在、北京在住の日本人の間で大評判になっている『江戸前寿司』の経営者・姜炳昇さんは、「こうして私は日本料理とめぐり合えた」と振り返る。32歳。温厚で、誠実な人柄。6年間日本で暮らし、寿司職人の道を追求した。去年5月に中国に戻り、今は仙台生まれの日本人妻と2歳の息子と故郷の北京で生活している。
当時の彼は中等専門学校を出たばかりで、中華料理の調理師を目指していた。父が誕生祝いに奢ってくれた日本料理は「おいしかったし、見た目も綺麗だった」。一目惚れ。即座に、後に「親方」と崇めることになる日本人板前さんに「ここで勉強させてください」と食い下がった。
「青葉」で働くこと3年余り。「本当の板前になりたければ、日本に行って修業を積んでこい!」と親方から叱咤された。その親方が自ら身元保証人になり、自分の故郷・仙台に姜さんを送り出した。
「腕を磨き、将来北京に戻って、店を開きたい。中国人でも気軽に入れるおいしい寿司屋を」。1999年、姜さんはこう心に決めて、日本行きの飛行機に乗りこんだ。
 日本語学校に通う傍ら、寿司屋でバイトをしながら、修業を積んだ。最初の一年余りは「まったくものになってない!」と師匠の怒りに触れ、握りあげたばかりのジャリをゴミ箱に捨てられたことも度々だった。「もう乗り越えられない」。くじけそうになった時、優しく支えてくれた人がいた。同じ店内で働く6歳上の日本人女性だった。結婚を決めた時、北京の両親が猛反対し、「生まれて初めて両親と喧嘩した」。慌ててフィアンセを連れて北京に戻り、両親に引き合わせ、「将来は必ず二人で北京に戻ってくるから」と約束して、ようやく納得してもらったという。
 「妻のお陰で、日本での生活にすぐ慣れたし、落ち着いて修業に専念できた」。「外国人板前は寿司の雰囲気と合わない」という枠を突破するため、人目に触れないところで地道な努力を重ねていった。「仕事の時は全力投球し、決して練習のつもりではやらない」。そのかいあって、帰国前まで、売り上げと規模で「東北ナンバーワン」を誇る仙台の寿司専門店の店長を任せられ、弟子までつくようになっていた。
 昨年5月、会社の大連進出に伴い、しばらく大連で仕事していたが、自分の店を開きたいという夢が捨てきれず、昨年末に思いきって北京に戻り、北京のCBD(センター・ビジネス・エリア)・建外SOHOで300坪、100席の『江戸前寿司』を開店した。大連、台湾、北海道などからの魚介類で彩られる調理台から、くじらの寿司まで出してもらえるとは驚きだ。美味しい上、値段も手ごろで、出前サービスもあり、開店するやいなや北京在住日本人の間で大評判になった。毎日、来店者の国籍をこまめに統計した結果、最初の一ヶ月は99%が日本人だった。しかし、姜さんはこれを決して喜ばなかった。
「中国人に寿司を食べてもらいたいことが夢で、対象者はあくまでも中国人。それに、北京在住の日本人はわずか2万人余り。対して、全国の中国人は13億もいる」。中国人客を増やすため、寿司の健康効果をアピールするホームページを立ち上げたり、雑誌に広告を打ったりの努力の結果、現在、毎月3~4%の割合で中国人が増えてきたと顔を綻ばせる。
6人の板前全員中国人で、全員姜さんの弟子。「2008年までに、北京や全国でチェーン店を増やしたい。究極の目標は、中国ナンバーワンの寿司屋になること。可能ならば、上場もしたい」。大きな夢を語る時も、落ち着いた口調は変わらない。
「やりたいことがあれば、すぐ始めたほうがいいよ」。その後も北京で暮らし続けている青葉の「元」親方とは、今も親しい。
「寿司は私の人生そのもの。これからも美味しい寿司を作り続けたい」。
食べるも作るも中国人が主流になっていく中国での日本料理。姜さんはこれからも本場の本格的な美味しさを余すことなく、板に盛っていくに違いない。