止まっていない「バカ」の連続

 1泊2日の職場の合宿で、北戴河という海(渤海湾)へ行ってきました。
 今も原油漏れが続いている海域までどのぐらいの距離なのか知りませんが、北戴河の今夏はいつも変わらない、いや、年々にぎやかになりつつあるようです。
 2年ぶりに行ってきたのですが、今回もロシア人の家族連れをたくさん見かけました。
 一方、鉄道事故の処理には変化が見られたようですが、根本的には見えていません。
 28日、昨日、宿泊先の保養所のロビーで温首相が事故現場を訪れ、記者会見を開いた映像を見ました。
 それに先立ち、新華社通信は事故の原因に関する結果を発表。「落雷で信号が赤から緑に変わった」という信号のミスが指摘された。「ようやく、雷神様の冤罪が晴らされた」、「おなかを抱えたくなる理由」だと揶揄もされているが。
 民間の世論調査会社の調査結果によると、温首相のお目見えにより、民衆の気持ちは幾分か穏やかなになった。詳細はhttp://t.cn/aY7jr0
 ただ、釈然としない点もたくさんある。
 これまで、一つのバカな対応により、その次、そして、その次の次もバカな状態続いている。このバカな継続状態が少なくとも、今のところ、根本的にとめられていないように思う。
 つまり、
 事故発生(列車運行上、最悪の事態)

→バカ1)現場では
 人名救助よりも復旧工事を優先、2)原因究明よりも追突車両をばらばらにたたいて、穴を掘って埋める 3)救援作業が終ってから最後の生存者(2歳半のイイちゃん)が発見

→バカ2)鉄道部の王報道官
 「史上最も混乱した」記者会見、問題発言続出、役に立つ情報がなかった。流行語がたくさん生まれた。
 (車両頭部を埋めた理由は救援のためだ、についての現場の釈明に対して)「君が信じようと信じまいと、とにかくおれは信じている」、
 (もう生きている気配はどこにもないので、救援が終了したと宣言された後に、事故発生20時間後に2歳のイイちゃんが救出された」)「これは、命の奇跡です。こういうしかないです」

→バカ3)報道体制
 政府系メディアが事故発生翌日は、解放軍の階級昇級式がメインニュースで、事故報道の扱いが小さかった;
 一方、ノルウェーの爆発事故に関する報道がたいへん綿密でレベルが高いと評されている。

 以上は、ほぼすべてが翌日までの「バカ」だ。
 【事故発生→人命救助→事故原因究明】という誰もがこれが普通だろうと思っている手順が悉く覆されていた。

 その後の「バカ」をピックアップすると、
・列車ダイヤの復旧(壊れた車体が高架橋の下に横たわっているまま)
・埋めた車体をまた掘り出した
・死者への賠償金について、「すばやく合意した人に対して、5万元未満の奨励金を出す」と公の報道で明らかになった
・賠償金金額の少なさ。しかも、火葬して証明書を見せることが受領の条件
・事故原因調査チームというより、数十の遺族対応チーム(見方を変えれば、怒りを爆発させないよう気持ちをなだめる、もしくは行動を監視するチーム」を立ち上げた
・事故発生時間の公式発表の改ざん
・死者の人数をめぐる謎、29日現在まで明らかにされていない行方不明者の人数、名簿リスト発表の遅さ
 ……

 では、温首相出現後の様子はどうなっているのか?
プラスの面
 ・原因追求にいくらか進展が見られたようだ
 ・高ぶる人々の気持ちの軟化の効果
 ・国がこの事件を重視する姿勢の表明
 ・事件の満足できる解決に希望が見られた
 ・これまでの不正や不公平を乗り越えた絶対的な公正と公平がもしかしてあるのかもという期待をもたらした

マイナスの面:
 ・「11日間体調を崩した」説とこれまで首相動向報道の不一致
 ・記者会見の参加資格をめぐる論争
 ・ただでさえ時間が限られた記者会見に、英語の逐次通訳が入り、しかも、通訳のスピードに対して現場にいる記者たちが「たいへん優雅で緩やかに」感じたことへの不満
 ・前後処理への総理の評価など、皆が聞きたい質問が全部聞けていない
 ・最後の質問は「温州人民の素養の高さをどう評価するか」だった。質問を出したの温州の地元記者。「そこまで褒められたいのか」とネットで批判が殺到
 ・記者会見の様子は、香港系のフェニックステレビが生中継していたのに対して、CCTVはしていない
 ・鉄道部長も現場にいたが、「鉄道部に人民に責任のとれる回答を期待している」と言われた鉄道部の大臣は一言も発していなかった

 温首相視察後の目に見える成果は、死者への賠償金金額がこれまでの50万元から91万元以上に引き上げられたこと。
 政府系では作業チームが原因究明を続けており、詳細な結果発表にいたっていないが、民間では、事故およびそれをめぐる処理に対する整理がどんどん進んでいる。
 ◆たとえば、高速列車事故後の世論形成に関する41の質問
http://blog.sina.com.cn/s/blog_5e6dd1c80102ds0g.html
「截止7月28日10时,相关报道共17,595篇,网民跟帖评论2,845,626条;论坛主帖92,796篇,博客文章53,495篇,微博9,616,248条。网民质疑主要集中在8大方面、41点,温总理出现后,网民情绪略有缓和。http://t.cn/aY7jr0
 世界各国で事故が起きてからの処理方法の比較なども行なわれている。

 事後チェック制が導入されているミニブログでは、事故後、書き込みの削除が目立っている。そうした中で、ブラックユーモアが発達している。また、20年前の中国ロックのヒット曲の歌詞を変えて、政府の責任追及をしている替え歌も人々の魂に迫る。
 ◆小話
「清掃係のおばさんに記者がインタビューした。
 「今回の事故をめぐり、お話したいことは?」と記者が聞いた。
 正義に満ちたおばさんが答えた。「国民に損壊車体の賠償請求をしていないだけ、良いんじゃないですか」
 「鉄道部と赤十字会の違いをどう見ていますか」
 問いが続いていた。
 「一个要钱,一个要命(片方は金を取るのが好きで、もう片方は命をとるのが好き)」
 「では、共通点は?「都不要脸(どっちも恥知らずだ)」

 今も続いているバカは、大きな事故が起き、善後処理も済んでいない上、原因究明もどこまで進んだかも分からないにもかかわらず、事態はすでに過ぎ去ったもので、あたかも何事も起きていなかったような方向に向け、焦って主流メディアによる世論形成をしたいことだ。
 首相の誠実さが見えたとしても、鉄道部の誠実さと謙虚さを感じさせてくれる出来事には残念ながら、まだ出合っていない。

一方、「『生命探査機で検査の結果、もう生きている気配はないことが判明したので、救助活動を終えた』という指示を出してはいない」という鉄道部の声明が発表された。
 これも「バカ」の鎖の一環だった。ただ、もし鉄道部が指示を出していなかったことが本当とすれば、誰か指示したところがあったことだけは明白なのだ。それはどこなのか。また、どのような力比べがあったのか。詮索が止まらない。信頼危機がさらにエスカレートしている。