可楽球で語るスポーツの本質+バッジ交換ブーム

北京の気候は、ふたたび、雨、晴れ、雨の繰り返しが始まったようです。
今日は夕方に、ぱらぱらと降った程度でした。
ただ、広い北京のことなので、車でちょっと走るだけで、ひどく降っているところと
あまり降っていないところ、地面が濡れてもいないところが、それぞれ見られます。
気温は22〜30度。空の透明度は普通です。



局ロビーのカウントダウン看板。使命が果たすまでに、残りわずかとなりました。



夕方に、同僚のKH記者が得意げに戻ってきました。
各国メディアのバッジをいっぱいぶら下げて、自慢しまくっていました。
「ほら、今日一日だけでこんなにたくさん交換できたよ」、と。
まったく腹立たしい(笑)。私にはまだ自分の職場のもの一個しかありません。
K記者は首にぶら下げたものだけでなく、ウェストポーチからも
「まだある。今度は音が鳴らせるバッジだよ」と、ボタンを押す度に、
異なる種類の鳥の鳴き声が聞こえるものを見せびらかしました。
イタリアのテレビ局のアイディアのようです。
「すごいな」と関心する暇もなく、今度は、
小型ぬいぐるみのような形のバッジを一瞬だけ目の前を見せて、すぐにポーチにしまいました。
ケチ根性、もろだしです(爆笑)。とにかく、もう、目移りしました。
どうやら、メディア村の中は、もうバッジ交換ブームが起きているようです。


ちなみに、私の職場のバッジはこんなデザインです。これもK記者から配られたものなので、
多少なり、得意げに振舞っていてもを許してあげることにしました(笑)。


■可乐球にかける思い 発案者に聞く■

■可楽球とは?■

東京から外国人研究員として、北京で体育を研究しているT先生を通して、
「可楽球」という大衆スポーツのことを知りました。
サッカーボールより一回り小さい、軽いボールに紐をつけて、
両手で紐をあやつりながら、足の甲で蹴ったり、音楽に乗せて様々な技を見せたりするスポーツです。
気軽に、誰でも、どこでもできることがメリットですが、一方では、技を極めようと思う人なら、
奥が深く、オリジナルなものをどんどん追加でき、研究しつくせない魅力があるようです。


北京のあちこちの公園でやるようになったのは、一年ほど前からで、
まだ良くは知られていませんが、感覚的には、
中国人がおなじみの【毽子】と似ているかもしれません。


この土曜日の朝、北海公園の練習場をちょっと覗かせてもらうことにしましたが、
とりあえず、今晩、電話で高おじさんに伺ったことをメモしておきます。


■一年で3000個余り売れた■

高さんは70代の定年退職者。中国トップのスポーツ大学・北京体育大学の元職員。
市民レベルの大衆スポーツの普及に情熱を燃やし、
定年退職後、もっぱら庶民のスポーツ普及運動で工夫をし、大きな夢を抱いています。


可楽球は中国語では、文字通り、「楽しいボール」を意味します。
2003年に発明され、2005年、中国の国家特許の認定を受けました。
07年から正式に商品化され、一個35元のボールは一年ほどで、3000〜4000個が売れたようです。


「老若男女とも気軽に楽しめるスポーツです。興味さえあれば、基本的な動作をマスターすれば、
 後はいくらでも創意工夫ができる。人それぞれ個性や好みが違うので、百人いれば、百通りの楽しみ方があ
 っていいと思う」。


■公園でやるようになった理由は■
しかし、一方では、普及にあたって、スムーズではありませんでした。
学校や団地、老人ホームなどにも働きかけをしてみましたが、
どれも積極的な反応が見られず、結果的に、公園を活動の場にしました。
まずは、奥様をはじめ、近所の定年退職者の仲間など身近の人たちからスタートしました。
そして、「公園という公開な場所で蹴ることにした」。
興味のある人は誰でも立ち止まれば、一緒に参加できるからだと言います。
一年ほど過ぎた今、習っている人たちのうちから、自発的にチームを結成し、
統一した衣装を買って来て、様々なイベントに自ら申し出て参加するようになった人が増えています。


毎週、高さんは市内の公園をはしごして、指導に励んでいます。
北海公園の場合、冬が寒いので、休もうかと思っていたようですが、
「来てほしい」と集まった人たちの要望に説得され、少なくとも、週一回は必ず来るようにしています。
中高年の女性が多いようですが、男性も若者も入ってきています。
そして、外国人も興味を持ち始め、フランスのテレビが取材に入るほどでした。


「フランス国内でのボールの代理販売のライセンスをください」と申し込みに来たビジネスマンも。
中国国内では、商品化はしたものの、どこの店も可楽球を置いてくれなくて、
事実上、購買は電話でメーカーに直接注文するしかありません。


「今、国は何でも五輪のために動いているが、可楽球は五輪と直接関係していないため、
 残念ながら、五輪組織委の目に留めていただけていない。
 可楽球の販売ももっと皆に知られたら、一月1万個ぐらいは売れると思う。
 五輪終了後にもっと大勢の皆さんに興味をもってもらえるようにしたい。」


■スポーツの本質は、親しみやすさにある!■
「こんなのではスポーツとは言えない」。これまで、蔑まれたことも数多く体験しました。
古巣のスポーツ大学でも、キャンパスでいつも練習しているにもかかわらず、
先生も教師もまったく見向きもしてくれません。
しかし、しぶとい態度で臨んでいます。
「そんなのは気にしてはいない。彼らの見える場所で練習することだけでも意義があると思う。」


徹底した気軽さを求めるには、理由があります。
「機材などにこだわらなくても、どこでもスポーツができる。
 これこそ、中国人の考え方のベースをなしたものだ。
 この点、ハイテクに対して止まない追求をしている西洋と違うと思う。
 私は、スポーツの本質はハイテクにあるのではなく、本質は
 どのぐらいの人たちに受け入れてもらい、親しまれてもらえるかにあると思う。
 箸を例にすると、2本の棒のみで、ハイテクは一切盛り込んでいない。
 しかし、2000年以上、使われ続けてこられたのは、
 人々から幅広く受け入れられたからだ。
 スポーツも手足を動かすだけのことなので、
 あれやこれやと難しく考える必要はないのではと今の人たちに言いたい」。


んんん、なるほどなるほど。単純明快なコメントでした。
東洋文明と西洋文明の対立の構図さえうかがえた発言でした。
しかし、野原やレンゲソウの花が咲く田んぼの上で寝転がって育ち、
「スポーツとは何ぞや」は、
ほぼ、大学に入ってからやっと少し触れた私にとっては、
すんなりと受け入れられる考えです。
ただ、五輪の考えとは正反対のようですね。
というか、こういう考えでは、先ずは現代五輪の発想が生まれてこないと思います。
もしかして、両方の考え方があって、両方並立して、
両方とも栄えていくことが、ベストなのかもしれません。



■「可楽球の醍醐味は?」■

高さんにはまだお目にかかっていませんが、電話で話しただけでも、
夢を抱き続けている素敵な方のようです。

「私にとっての可楽球の醍醐味ですか?」
納得できる理由が聞けました。
「先ずは、このボールを通して、社会と接触を持たせてくれたこと。
 可楽球を通して、色んな人が私に声をかけてくれました。
 こうやって、この社会とつながりを持つことができました。
 それから、私は八項目の市民スポーツを提案しましたが、
 現在のところ、商品化できたのは、可楽球のみです。
 なので、ぜひともこれを突破口になってもらい、
 ほかの7項目も早くお目見えになれるといいなと願っています。」


老後の過ごし方まで教わった高さんの電話でした。
ほかの7項目のものとは何か、次回聞いてみようと思います。