赢在中国

Chinese Dream醸し出し中、中国が「総裁」時代へ突入していくか?

 久しぶりに面白いテレビ番組を見ました!CCTV-2の「赢在中国」です。2年前に高視聴率で社会現象となった「超級女声」と比べさせたら妥当性に欠けるが、「PK」型及び視聴者の投票参加を重視すると言った点では、似ているとも言えます(参照:http://win.cn.yahoo.com/)。
 しかし、比べてみたら、たとえ2億人の視聴者を引き付けたとメディアを賑わせていたにしても、やはり「超級女声」のほうが子どもっぽく見えます。何せ、スケールが違い過ぎます。大衆路線を歩む前者に対して、「赢在中国」は全中国の富を凝縮した上、それらの富を握っている時代の寵児たちの参加とサポートを得ているからです。

 クールな電子音に乗せて、デジタルの光を放った一粒のバスケットボールが宇宙から飛び出ました。ボールは大気層を突き破り、地球に、中国に、そして、この北京のど真ん中に降り立ちました。そのボールを受け取ったのは、ETでした。いや、正確に言いますと、ETそっくりの顔で知られる阿里巴巴社の総裁で、Yahoo中国の吸収・合併でサクセス神話を残した馬雲氏でした。その後、そのボールはIT業界や通信業界のエリートたちの手に転がり、そして、大手流通業の創始者投資ファンドの会長、大手乳製品会社の創始者、大手国営集団企業の董事長などの手へと次から次へと渡され、テレビ画面にしばらく豪華な顔ぶれが続いていました。ついに、気功の「雲手」のようなしぐさで力強く押し出され、ボールは光ファイバーのトンネルに乗せられ、光速で数千数万人に囲まれたステージに落とされ、NBAのスーパースターである長身の姚明選手が軽々しくそれを手にしました。顔のクローズアップと共に、姚明のこもった声が電子音に乗せて鳴り響きました。
「努力すれば、必ず成功するとは限らない。しかし、諦めたら失敗するしかないぞ!」
格好良い!腑に落ちる。感動的な番宣でした。洗練されていて、アイディアも画面も見ごたえがあり、何遍見ても、見飽きないおしゃれな画像です。

番組の概況は以下です。
コンセプトは、起業を志す人を激励するコンクール型の番組。半年前に参加者を公募した結果、12万人の応募を引き付けました。予選は数段階に分けて行い、先ずは12万人から108人を選び出し、次にその中から上位36人、さらにその中から上位12人を選抜し、最後は10月17日から11月18日の7週間にかけて、決勝戦を行い、優勝者5人を決めるという企画です。
選手たちは起業を志す人か、既に会社経営の実践者です。年齢は20代から40代と幅広いようですが、上位12人にエントリーした人は30代が多そうに見えました。最終の7回の試合では、選手たちがチームを組み、毎回与えられたビジネス課題を受け、提案と実際行動をとり、その効果をクライアントに採点してもらい、負けたチームから一人ずつ淘汰していくというやり方を取っています。
一方、審査員の3人は、それぞれ赫々たる成果を勝ち取ったビジネス界の大物です。総資産800億香港ドルの華潤集団を舵取り、現在は中糧集団の董事長の寧高寧氏。かつて、大胆な投資決断で数多くの有名企業を生ませ、現在は中華英才網董事長を務め、そして、20億人民元の資金運用権を握っている今日資本集団総裁の徐新氏。投資ファンドSAIF(ソフトバンク・アジア・インフラストラクチャー・ファンド)総裁の閻炎氏。
 雲の上にいる人たちの全面的なバックアップで出来た番組と言えます。しかし、彼らの多くだって、神話を作り出した初代の起業者であるところに、迫真性と魅力があります。そして、試合の内容はいたって厳しい。参加者一人ひとりの素質がたいへん重要視され、起業家としての能力、精神力及び自己責任が厳しく追求されています。負けたチームから選手を淘汰するセッションでは、一人一人の自己評価を問い詰められた後、審査員からきつい質問が投げ出されました。
「隊長、AさんとBさん、あなたは誰をより嫌っていますか?」
さっきまで同じ目標のため、チームワークを組んでいたメンバーは、見る見る間に、音を立てて、瓦解しました。厳しいシーンでしたが、現実性が伴っているため、単なるテレビのショーとは思えませんでした。
番組のキャッチフレーズも単純明快なものです。
「猫か虎か、証明して見せろう!」
「起業は辛い過程です。最後まで持ちこたえられるのか、試練ですよ!」
「志で人生を照らし、起業で運命を変えよう!」
面白かったのは、エンディングで流れたテーマソングでした。癒し系の歌で、且つ、起業を志す人の共鳴を呼び起こそうと狙って、書いた歌だっただろうと思います。プロの歌手が歌うのではなく、スポンサー企業の総裁や、審査員、選手たちの合唱で歌われています。サブリミナル効果も兼ねていただろうか、サクセスストーリーを書き残した総裁たちの顔が次から次へと映し出されていました。歌唱力は?そうですね、お世辞にも上手とは言えませんね。まあ、よく言えば、ありのままの心情を歌い出している、というところかな。
タイトルは「在路上」(On The Way)、ついでに歌詞を紹介します。

「あの日、やむを得ず、私は旅立った
 躍動していた自分の心があったために
 誇りをもって生きたいために
 自分自身を証明したいために 私は旅立った
 道中の辛酸は私の目に染み込んだ
 心のジレンマは私の揺ぎ無い決心となった
 
 On the way  心からの声で呼びかけたい
 On the way  傍にいてくれる人のために
 On the way  人生の門出なのさ
 On the way  温もりをくれた人のために」

思えば、中国の若者の夢は、ここ30年で劇的に変わってきました。30年前では解放軍になること、20年前では科学者になること、そして、ついに、10年前から「大老板」や「総裁」になることになっています。今後の中国を牽引していく力は、総裁たちにある、この番組を見終わった人ならば、誰がこれを疑うのでしょうか。
ただし、興奮冷めやらぬ頭を落ち着かせて思い出してみれば、「贏在中国」の放送するわずか一時間前に、同じチャンネルでは「炭鉱の人身事故」の特集が放送されたばかりでした。膨らみつつあるチャイニーズドリームの傍ら、大きな陣痛を伴いながら、前進の道を模索しているのが今の中国ではないでしょうか。