ピュアな美、『銀河鉄道の夜』

あまりの美しさに心が震えました。ピュア過ぎて、美し過ぎて、綺麗過ぎて…果たせなかった恋のように、物哀しいムードに浸りました。
映画『銀河鉄道の夜』はそんな映画でした。想像の中のきれいさだって、見える形にできる。しかも、自分の想像よりも遥かに色が豊かで、鮮やかで、ダイナミックに再現されている。今回の映画がこのことを証明して見せてくれたと言えます。花巻で宮沢賢治の童話村を見学した時も同じ感覚に襲われました。空想を現実にするすばらしい技に敬意を表します。
童話村は20分ほどで一巡できてしまう幻想的な室内空間であったのに、今回は映画を見ながら、小一時間の心しびれる旅ができました。ぼんやりとした明かりに照らされ、揺れ動く草花、ゆらゆらした透き通った水、無限の想像をもたらしてくれる満天の星、来し方も往く方もはっきりしない小さな列車、車内は賑やかそうなものの、誰一人、人間の姿をしていない名状しがたい雰囲気に包まれていました。
監督の加賀谷穣さんがゲストとして、閉幕式の壇上に立ちました。
「10歳の時、『銀河鉄道の夜』を初めて手にした。繰り返し読みながら、頭の中で風景を想像していた。星に興味を持ち始め、絵を書くようになった。今の自分があるのは、原点をたどれば、すべてこの本との出会いにあった」と振り返りました。
「過去、現在、未来に渡って、変わらないものがあると信じている。それは愛、正義、生命、自然の美しさ、宇宙の真理だ。これらをテーマにした作品なら、どこに行っても交流ができる」と信念のあふれる挨拶でした。今回で三度目の中国になる。毎回来る度に熱狂的なファンたちに取り囲まれるため、
「すっかり中国が好きになった。チャンスがあれば、中国の様々な風景を見てみたい。そして、それをいつか作品の中に描いてみたい」という。まだ30代の若さ。「決して怒らず、いつも静かに笑っている」という穏やかな表情で、伝えたいメッセージを短い表現で分かりやすく、はっきりと訴える。
来場者の中に、インターネットで日本映画週間開催の情報をみつけ、さっそく入場券を購入し、退勤後、駆け足で地下鉄を乗り継いでやってきた20代半ばの女性がいました。「何故来たの?」「だって、ナレーションは桑島法子さんだもの」。宮沢賢治のことも日本語も特に勉強したわけでなく、好きな声優にいざなわれて来場した熱いファンもいました。
日本では、今夏完成、上映した映画でした。封切に伴い、池袋のプラネタリウム対応映画館で70日間放映したところ、一館だけで5万人を動員したという記録的な数を作りました。日本人の職人魂が滲む「美しさ」を極めた作品は、来年1月、北京の天文館で放映されることになっています。その折、もしチャンスがあれば、監督さんに以下のことを教えてもらいたいと思っています。「何故、登場人物が一人もいないのか?幻想的な銀河の旅の中で、何故時々、百パーセントリアルな日本の駅の風景を再現したのか?」。
ピュアな美しさを求めてやまない、『銀河鉄道の夜』。ひょっとしたら日本人の美意識そのものかもしれないとも思っています。