ジョン・ウー監督 『七人の侍』を語る

 「レッド・クリフ」のジョン・ウー監督は黒澤明のミーハーのようです。
とりわけ数え切れないほどの回数で繰り返してみるのは『七人の侍』。
「映画を撮る前に、アクションにせよ、戦争映画にせよ、コメディにせよ、映画を撮影する前に必ず見ています。自分ひとりで見るだけでなく、カメラマンもアクションの振付師も編集者も一丸となって見ています。」

 カメラの使い方、戦闘のシーンに込められたヒューマニズム的意義、役者の使い方、編集のテクニックなどを見ているようです。そして、黒澤先生がどのようにして撮影していたのかを想像して、自分をそこにオーバーラップして考えるようです。

 ウー監督は黒澤先生に実際にお会いしたことはないようですが、東京に行くと必ず息子さんの開いている飲食店に行って、「黒澤先生のお好みの肉を食べて、ワインを飲むと、あたかも黒澤先生と一緒に食事してきたような気持ちになる」とおっしゃっています。

 ウ−監督は、「次の作品はアクション映画ですが、その次は黒澤先生をしのぶための『侠客映画』に初めてチャレンジしてみたい。登場人物は存在感が薄いこれまでの中国映画と違う、『用心棒』のような黒澤スタイルの『侠客映画』を作りたい」と言い、「題材は?」と訊かれて、何故か指差していたのはスタジオの本棚に納まっている上下2冊からなっている『宮本武蔵』の中国語版でした。

 もう一つ、「秘密」を知りました(^^)。
 『レッド・クリフ』のエンディングで、双方の兵士の屍の山を前に、周瑜の口からしゃべらせた「戦争にそもそも勝者はいないのだ」という台詞は、『七人の侍』からヒントを得て、それをまねたものだったと言います。野武士退治の戦いに勝ったものの、リーダー格の侍・勘兵衛が「また負け戦に終わった」と言って村を去ってしまったシーンに感銘を受けて拝借したアイディアだったとおっしゃっています。

 『七人の侍』。本日の通訳に備えて夕べ慌ててネットで見させていただきました。一人一人演じているというより、キャラクターになりきっている表情、顔、目つき、立ち居振る舞いでショックを受けました。一例を挙げると、あのほっそりした琵琶法師の顔と悠長な構え、とても「役者」じゃ表現できません。半世紀も過ぎると、映画にしても、役者にしても、人々が日常的に見慣れた顔の表情にしても確実に変化しているようです。
 しかし、『七人の侍』は「人類の物語」として廃れることがありません。
 中国の普通の映画では、「お百姓さん」は必ず「善」の側のものとして描かれますが、この点、『七人の侍』の描写は面白かったと思います。
 また改めてはっきりした映像で見直したい作品です。