ドライバー宮さんの「マイホーム作り」+友人の万博「生」体験

久しぶりにタクシードライバーの宮さんに会いました。
ご自宅は西五環路のすぐ外側にあるY村で、私の職場からも団地からもそう遠くないので、10年前からいつもお世話になっています。
誠実な人柄で、「どこそこに何時までに着きたいが」と電話で予約すると、「では、〜時に迎えにいきますから」と計算してくれるし、彼なりに最短の行き方があるので、精一杯運転に励んでくれるから、安心して乗れます。


そんな宮さんは昨年末から「とても忙しい」。
忙しくてタクシーの仕事をする暇はないほどです。
何で忙しいかというと、「マイホーム作り」です。
せっせと昨年末から工事を始めたようです。
そのわけは?「立ち退きが確実に始まるようです。
確実なルートで仕入れた情報ですよ。
それがもうすぐのこと。年内にでも始まるのではないかな。
話し合いが始まれば、合意すると、後はもう早いよ。
その場で契約書にサインして、お金をその場でもらい、
翌朝にでも引越しすることになるから、
もう今は引越し先をみつけなくちゃ。昨日も下見に行きましたよ。」


立ち退きが始まると、土地が徴用されるので、「平米あたりいくら」で現金収入が入ります。ただし、中国では土地は国の所有か、村の集団所有のため、個人の住んでいる家でも、建物の建つスペースの面積が計上されますが、何も建っていない庭の部分の面積は計上されません。
そのため、宮さんの家の庭にはここ数年、出稼ぎ労働者向けの廉価な賃貸アパートを建てたにもかかわらず、総面積はわずか200平米ちょっとでした。
中国の農村にしては、それほど広いとはいえません。


それが、昨年末からの工事の成果が実り、「今は400平米になりました!」と
今日は満足げな表情を浮かべました。
できた家にはさっそく借りて住む人も現れたほどの繁盛ぶりのようです。
家を作る時の費用は主として、材料費と人件費ですが、いずれも値上がりしているようです。
中古レンガの値段は昨年では0.4元未満/枚でしたが、今では0.5元になったようです。人件費がそれ以上に高くなっています。
総じて計算すれば、「一平米当たりのコストが500元ぐらいです。もちろん、ちゃんとした家は作りませんよ」。
それでも、200平米も作ると、相当な出費です。
これまでの立ち退きでは、「違法建築」の分は土地賠償代金を支払う対象にならない決まりがありましたが、そういう意味では直近に作った家が適用されないリスクもあります。そんなリスクを犯してまでも家を作るということです。
「何故なら、リターンがざっと計算すれば、10倍以上あり、余りにも大きいからです。」
 宮さんの予測では、再開発が始まり、立ち退きになる場合、すくなくとも一平米は1万元以上になると見込んでいます。しかも、もともとの村落付近でビルのマンションが作られ、そのマンションをもともとの村人が購入する場合、比較的安い値段で買えるから、色々差し引きしていても、軽くリターンが10倍を超えてしまうと言います。
 「だから、リスクがあることを知っていながら、それぐらいのことをして見る価値があるのですよ。適用外と認定されても心ではあきらめる覚悟はしていますが、少しでも認めてもらえれば、莫大なお金になりますからね。」


 Y村はここ50年ほどできたばかりの移民の村のようです。いまや干あがった永定川のほとりにあり、村の大部分の住民は山東省から移転してきた人たちのようです。
 現在、戸籍上の総人口は2000人あまりですが、このほか、村人の数倍の人数の出稼ぎ労働者が借家して住んでいます。宮さんの家(5人家族)にもこれまでだけでも10数人の出稼ぎ労働者が住んでおり、10平米広さの部屋の家賃は一月300~400元が相場のようです。

 数年前から、六環路の工事で、Y村は立ち退かされるといううわさが広まり、村人たちがひそかに喜んで待っていたようですが、とうとう計画が発表されずに、今日に至っています。
 「早かれ遅かれ、立ち退きは必ずやるでしょう。高層ビル群がすぐそこに迫ってきたもの」と宮さん。
 「今度ぜひゆっくり遊びに来てください。村中、工事でおおわらわですよ。ハハハ」。
 宮さんから来てくださいと誘われたもう一つの理由は、「もう半年もしないと、この村が永遠に消えますからね。なくなる前に、今の様子をぜひ見てみてください」。
 元気よさそうな宮さんの言葉に寂しさもにじみ出ていました。
 こんど、チャリンコに乗って遊びに行ってみます。


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 友人一家3人が念願の万博に行ってきました。
 すさまじい体験のようです(爆笑)。
 今日は人気館のサウジアラビア館前で行列我慢くらべっこの試合に参加したようです。
 午後4時頃に届いたメール:
 「ようやく、まもなく『待ち時間3時間半』の看板に変わるようです。これまでにはもう待つこと7時間!!」。
 ただ、一家でおとなしく待っていたわけでもなく、奥さんと代わり番こに抜けて、お嬢さんをつれて、食事に行ったり、ほかの館の行列に入ったりしていたようです。
 中でも、「パパ」が一番奉仕精神が強くて、無味乾燥なWaitingの仕事を一番長く当番していたようです。だから、よっぽど暇だったようで、知り合いとの携帯メッセージのやり取りで時間つぶしをしていました。
 生中継のように送られてきた写真に疲労困憊の難民のような姿の行列がありました。途中、手を出したり、口喧嘩をしたりするようなシーンも。片づけができていないごみの山も。そして、さっきまで飛ぶように走っていて、行列に戻ったとたん、車椅子でおとなしくしている人達のことも…
 さすがに7時間も待つと、友達の精神状態が異様になってきたようで、高ぶるスローガンのようなメッセージが送られてきたり、「もう、ワンワンと号泣したいですよ。おれは男なのに」というメールも。
 友人は普段は温厚な性格で皆から尊敬されている長身の男性です。涙をぽろぽろ流すシーンは彼にはどうも似つかわしくない。読む側がおかしくてげらげら笑いたくなります。
 そして、ゆったりした部屋の中にいて、椅子にゆっくり座れて、トイレに行きたい時にいけて、水を飲みたい時に飲める自分って、どんなに幸せなのか、心からそう思いました。
 幸い、夜8時10分前にまたメールが届きました。しかし、見ると、やはり驚いて吹き出したくなりました。
 「お陰様で、サウジアラビア館の見学が無事終了。それはそれは、ほんとに良かったですよ。ただ、中にいたのはわずか十数分だけ」。
 たとえ上海まで行ったとしても、砂漠を乗り越える道は、やはり遠いようです。でも、ご家族にとって生涯忘れられない思い出になったようで、それはそれでとても良かったようで、何よりです。
 万博には行列がつき物のようですね。これも元気な中国の今そのものでもあるかもしれません。