「自らを見る」と「他を見る」

 偶然ではありますが、不可解なことがあることに気づきました。
 それは、同じ事柄ではありますが、自らのことを報道する時の目線と人のやっていることを報道する時の視線に、れっきとした違いがあることです。
 たとえば、夕べ新華社通信が配信した中国の高速鉄道に関する報道では、強調していたのは、「中国はテスト運行で自らの記録を更新して、時速486.1キロの新記録に達した」ことで、そして、CCTVの報道でも強調していたことは「レール式交通の世界新記録」を刷新し、「中国はレールなどの技術において世界最先端のレベルに達している」と鉄道関係者がインタビューで誇らしげに話していました。

◆11月のテスト運行(時速416キロに)の報道)
 http://jt.cctv.com/20101130/103763.shtml
 <中国は世界の先端技術を導入し、吸収した上、自らのイノベーションを加えたとしている>
◆今回の報道
 http://news.sina.com.cn/c/2010-12-03/115621577736.shtml
 http://www.china.com.cn/news/txt/2010-12/03/content_21475843.htm
 京沪高铁试跑世界最高速 京沪间将实现4小时到达

 報道内容の正確さへの検証はさておいて、中国の記事は新記録、世界最速、世界最先端が強調されていました。もちろん具体的に「世界」のどこの国と比べて早くなっているのか、進んでいるのかは書かれていません。
 一方、日本メディアの記事は東京新聞のこのタイトルに代表されるようです。
◆中国版新幹線が「本家」抜く 時速486キロ記録
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2010120402000027.html
                  
                 ◆☆☆◆
 何が何でも自分の力を証明したく、中国ならここできるんだよという思いが強い中国に対して、驚きとやや複雑な思いが垣間見られる「本家」の受け止め方でした。
 鉄道のことはさておいて、たいへん不思議に思っている事柄がもう一つあります。それは3日から8日間にわたって行われる日米共同の軍事演習に関する報道の仕方です。
 日本語では、正式な名前はなんと言っているのか、中国語報道で使われている用語を日本語に直せば、「日米合同軍事演習」になります。仮にGoogleで「日米合同軍事演習」で検索にかけてみたら、ヒットしたのは「約 249,000 件 (0.08 秒) 」という結果でした。
 ●冒頭は長崎新聞の記事(581字)で、二番目以降は北京放送、人民日報などの中国の日本語サイトの報道です。何故そうなっているのか、不思議に思っています。ちなみに、同じキーワードで中国語Googleで検索にかけたら、「获得约 1,320,000 条结果 (用时 0.08 秒) 」となっていました。

 ●続いて、長崎新聞のサイトに使われていた似たような用語「日米共同統合演習」で再度検索をかけてみました。今度は「約 106,000 件 (0.08 秒)」ヒットしました。また、Googleの「ニュース」で再度検索したら131件。さらに、「自衛隊」、「米軍」でGoogleニュースで検索したら、193件でした。
 今度は「実動演習」でGoogleニュースで検索してみました。85件でした。冒頭にヒットしたのは「しんぶん赤旗」の記事で、北京放送など中国発信のアドレスも含まれていました。
 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-12-02/2010120202_01_1.html

 色々検索してみて、自分なりに得た不完全かもしれない結論は、日本国内のメディアは今回の「演習」に対して、あまり関心を示していませんでした。いや、もしかして、関心は強くあるかもしれないが、ただ、サイト上の報道結果に限ってみると、結果的に関心はなかったとしか見えませんでした。
 一方、中国のメディアは、
 ・砲撃事件など朝鮮半島情勢の緊迫化
 ・韓国で韓米合同軍事演習が行われたばかり
 ・中国外交当局の再三の提案があったにもかかわらず、六カ国協議再開の目処が  立たないなどのことが背景に、今回の日米「演習」が敏感になっている地域情勢にどのような影響を与えるか、朝鮮情勢の問題の一環としてかなり関心を抱いていると言えます。関連報道の主なポイントは、
 ・終了したばかりの韓米軍事演習の6倍/史上最大規模/4万人あまり参加/8日間継続
 ・演習のコード名は「利剣」(「キーン・ソード」の中国語訳)
 ・演習の主な内容は、弾道ミサイル防衛と島嶼防衛である
 ・日米は「定例演習で、前々からの予定で実施されたもので、当面の朝鮮情勢を
  念頭に置いたものではなく、特定の仮想敵を想定はしていない」と主張…

 夕べ、CCTVのニュースは韓国KBSより提供した映像として、軍事演習の様子を伝えていました。日本からの映像ではなく、韓国経由の映像というところも興味深かったですが。関連報道は以下からです。
http://space.tv.cctv.com/video/VIDE1290864471521883 
http://news.cntv.cn/world/20101202/109991.shtml
http://world.people.com.cn/GB/1029/42354/13393302.html
http://news.sohu.com/20101202/n278056191.shtml

 ちなみに、個人的にこうした温度差に気づいたきっかけは、毎日聞くようにしているNHKラジオのネット配信(http://www.nhk.or.jp/r-news/)では、関連の取材や分析が聞こえなかったからです。平日夜10時の番組は1時間と長く、いつもホットな問題に対する専門家インタビューがあり、特集が組まれていて、たいへん勉強になるので感謝しています。今回も期待していましたが、まだこういう企画が聞けていません。とは言いながら、演習は残り一週間もあるので、そのうちに聞こえるに違いない、と期待しています。
 ある意味、当然のことですが、結局、どこの国もまずは自分の世界、自分の築いた世界の中を生きるということでしょうか。