“杜ララ”の世界 実在している!

 「ハイ、トニーかい?ぼく、後ろの席だけど」
 「あれ?マック、何故お前はファーストクラスなんだよ?おかしいぜ」
 「そうね。マリーだって、同じみたいね。どうしたんだろう」
  ...
 昆明からシーサンパンナ行きのコミューター便に乗り換えると、一気に私の周りが映画の世界でした。昨年あたりから超人気のトレンディー小説、映画、ドラマでもある『杜ララ昇進記』が目の前で実演されたようです。
 トニーもマックもマリーも...もすべて生粋の中国語を話す、生粋の中国人でした。共通点はみな若いこと。せいぜい20代後半から30代前半まで。そして、比較的おしゃれであること。
 100人あまりしか乗れない小さな飛行機なのに、こんなにも顔見知りの人たちが乗っているなんて。不思議に思い、まだ空いていた席をはさんで窓際に座った若い女性に「もしかして、会社の慰安旅行ですか?」と聞いてしまいました。
 「というか、年度末なので、“年会”のついでに旅行をする。会議日は1日、残り2日は旅行ですね」
 「ところで、何人乗っていますか」
 「そうね。北京、上海、深センそれに香港拠点から全員集まるので、全部で150人ほどになるかな。この便には北京と上海だけなので、100人ちょっとかな」
 しばらくしてから、空いた席に30代前後のシャープそうな男性が乗ってきました。「やあ!」と窓際の女性に挨拶をして座りました。今度は私に「ところで、面識がないですが、どこの部署ですか」と聞いてきました。
 てっきり同じ会社の違う拠点からきた人間だと勘違いされたようです。
 しばらくおしゃべりをしてから、「杜ララ」と無性に似ている点がいくつも確認できました。
 ・本部はアメリカのコンサルタント会社
 ・ヒューマンリソース管理の仕事をしている
 ・「年会」の開催地に暖かい南国を選ぶ
 ・互いに英語で呼び合っている(理由は“肩書き関係なく、ボスから後輩まですべての人が平等に呼び捨てできるメリットがあるから”;ただ、ひどいのは“中国語名は知らない人が結構多い”)
 昨年の“年会”は海南島で、今年はシーサンパンナ。毎年、かならず離れた場所を選んで開催しているといいます。
 杜ララさんの会社は本当に実在していたのだ、これが一番の感想でした。

 ちなみに、北京から昆明までは、距離にして2200キロあまり、飛行機で3時間あまりかかります。昆明からトランジットで、シーサンパンナダイ族自治州の州都・景洪まで1時間弱です。
 ホテルの部屋に入り、荷物を降ろして、夕食に行こうと思ったのは夜9時頃でした。「近くですぐ食事できる場所は?」とボーイさんに聞いてみたら、「出てすぐ右のところに蘭州ラーメンがあるよ」と言われました。
 せっかく南国に入ったので、シルクロードを思い出させる味はちょっと気がひけます。そこで自分で探してみたら、「米線在巷内→」の看板がすぐ見かけたので、満足した気持ちで“老板”に注文をし終わったところ、「もしかして」と気になったことに気づきました。
 「すみません。もしかして、四川の方ですか」
 「ああ、そうですよ」
 ガクン。もっと早く気づけばよかったのに。
 「景洪に来てどのぐらいですか」
 「あ〜、まだ数ヶ月しか経っていないよ」
 蘭州を逃れたものの、結局、四川だったのですね。四川弁と雲南弁の節回しの違いがすぐに聞いて分からなかった自分が悪かったのですね。
 幸い、出された1杯5元のドンブリの中身はあっさりしていて、美味しかったです。