日本語ガイドの今昔

 友人の集まりで偶然にも日本語ガイドの今の様子が聞けました。

 「今の日本語ガイドって、ほんとにたいへんだよ。この頃3泊4日でニキュウハチ、2万9800円のツアーがあるのよ!しかも宿が四つ星ホテルだよ。それで、ガイドは旅行社から日当20〜30元をもらって仕事に出るわけ。これで如何すれば生活費稼げると思う。まあ、まだニキュウハチは増しなほうで、イチュウハチのツアーまで最近出ているのよ」
 ご本人は元日本語ガイドで、奥さんは現役日本語ガイドのPさんは立て板に水のごとく、すばやい日本語で愚痴をこぼしていました。
 「人数も減ってるしね。しかも、お客さんはあまり買物はしてくれない。もう掛け軸を一本売り込めば、50%のバックマージンが入り、ガイドが大満足できる時代ではない」
 40歳のPさんはガイドをし出した頃はまだ中国には「兌換券」という貨幣があった時代でした。人民元は外貨に直接両替できなかったため、兌換券という仲介の通貨を儲けていました。外国人観光客は使いあまったお金をもう一度外貨に両替し返したい場合は、兌換券に限っていました。兌換券は本来、同額の人民元と同じ価値だったはずでしたが、外貨に両替できる特性が買われて、それ自体に価値が付くようになり、1兌換券は1.2〜1.5人民元の価値がありました。外国人の傍で働くガイドはお客さんとこっそり両替することだけでも、やすやすと一儲けできる良き時代がありました。
 しかし、今は「掛け軸はもう新鮮ではない。売れない」。
 普通のお客さんは買物の意欲が高くなく、一方、「今回は買物しそうな客だよ」という見込みのあるツアーの場合、「人頭税250〜300元ずつを徴収する」形でツアーはガイドと運転手に任せる形になるようです。つまり、お客さんの人数分だけの頭税を旅行社に支払うことが、仕事を引き受けさせてもらうことの前提ということ。
 
 幸い、完全に暗いニュースばかりでもないようです。
 「今は時代が変わったからね。もう兌換券にすがったり、観光土産品店で買物だけさせればよい時代からOPの時代になったのだよ。OPって、つまりオプショナルツアーのことだよ。普通の観光コースだと面白くないので、お客様のニーズに応じて、胡同の家に入ったり、工場見学をしたりして、生き生きとした中国経済、社会の発展の様子を体験できるようなオプションをたくさん用意すること」
 そして、「日本から来たお客さんの人数がすごく減ってはいるけど、全般的にやはり増える傾向なのでね」ということも。 
 ただ、OPでついでにべらべらと話してくれた驚きの「白状」が聞こえました。
 「オプショナルツアーは実に様々なオプションがあるのよ。お客さんのニーズさえあれば、これもできるのさ」とPさんは右手の小指を立てました。
 「そういう色々紹介してくれるブローカーのコネクションもあるということですか?」
 「それはそうさ。だいたいバーなどに連れていくけどね。もちろん、僕はもうそんなことをやめてもう十年になるけど。だけも、今でもオプションで選んでいただけるのよ。女性のガイドだってルートは知ってるはず」
 
 “隔行如隔山”。
 失われた20年の日本経済を背景に、中国の日本語ガイド界も悪戦苦闘しているということでしょうか。ただ、裏表の両方を知ってしまうと、人間の深みが増す変わりに、世の中を見る目にピュアさが失われてしまいます。残念で心寂しいことです。