パンダのふるさと、突然の大震災

中国大陸が揺れていた。


■北京、目まいか地震か?■
午後2時半頃、局でいつものように本日収録の番組準備で、
パソコンに向かっていた時だった。
何故か、目まいがしてきた。
何も前ぶれもないのに、どうして、こんなに急に具合が悪くなっただろう。
その目まいは、なかなかやまなかった。数秒が経った。
「待ってよ。本当に目まいなのか、ひょっとしたら…」。
瞬間的な反応だった。
地震だー!」聞こえてきたのは、自分の声だけではなかった。
周りの同僚も同じ声が上がった。
壁にかけている時計もホワイトボードもゆらゆらしていた。


日本で何度も地震を体験していたが、
がたがたや、ゆらゆらする地震があったが、
目まいの引き起こす地震は初めてだった。


■温首相:“特別重大的地震災害”■
まさか、これが中国大陸ほぼ全域を影響したほどの大震災だったとは
思いもよらなかった。
しばらくしてから、テレビは四川の(シ文)川でマグニチュード7.8、
震源の深さはわずか10キロの地震が起きたと報じた。
また、北京郊外の通州でもマグニチュード3.9の地震が観測できた、と。
さらに、温家宝首相も直ちに、被災地に向かったことも。
しかし、震源地の様子はまったく把握できていない。
映像もまったくない。
「四川には人が密集していない場所はないからね」、と
四川を取材したことのある同僚は心配が隠せなかった。


「大きな地震が起きた後、遠くの地方が影響を受けて、
 あのような揺れになったのだ」。
日本人同僚のMさんはこう言い切った。
後で分かったことだが、北京のみならず、
私の実家の安徽省も含めて、北方から南方のかなり広域が
揺れがあったようだ。
海を隔てた台湾全島も強い揺れがあったとか。


温家宝氏が四川に向かう機内で発表したステートメントで、
「特別に重大な震災」という表現をしていた。


■被災地はどうなっているのか、CCTVの生放送が続く■
夜、CCTVニュースチャンネルと総合チャンネルはずっと
 生放送で震災の情報を伝えていた。
22時半頃まで、「現時点の死者は7800人」と発表した。
ただし、この数字について、民生部の災害救助担当の局長や
四川にいる記者との電話取材では、いずれも
「私たちの把握している数字はこれとは違う」という話だった。
「国家地震局のまとめた現時点の数字を知っているが、
 かなり権威的な数字だと思うが」と電話の向こうで、
記者が言い出した瞬間に、スタジオのキャスターは乱暴にその言葉の腰を折った。
「この数字はこれからも変わるだろうと思うので、現時点、とくにこだわる必要はないのではないか。
 それより、現場の様子を教えてください」。話題の流れを意図的に変えた。
不吉な予感がしてしょうがない。
さっきまで出したばかりの数字に、すでに、視聴者は大きなショックを受けたに違いない。
すぐに更新されると、パニックが大きくなるのでは。ひょっとした、そのような配慮があったかもしれない。


CCTVは生放送の役割を存分に発揮した。
また、地震が起きた時にどのように避難すればよいのか、短編も放送された。
空、道路、鉄道、電信、地震局、民生部門など、
関係者への取材も続いていた。救援状況や政府の対応なども。
知りたい情報ばかりだったので、しばらく釘付けになって見ていた。


「短期間に、強い震度の地震が近い範囲でもう一度起きる可能性は
 ないとは言えない。そのため、引き続き気を緩めずに、
 注意深く見守っていく必要がある。」
ゲストの地震局の専門家は注意を呼びかけている。


ただし、震源地・(シ文)川への道路が山崩れで中断され、
通信も電力もすべて不通になったため、一切情報が伝わらなかった。
ただし、近くの都江堰市や綿陽などにいる地元の人々と電話がつないだ。
四川訛りの強い方言だった方もいて、電話の音質もよくなかったこともあり、
あまり分からなかった方もいたが、切羽詰った話し方では、
状況の深刻さを察した。


23時40分頃に、とうとう更新した死者の数が発表された。
8533人になった。


午後に撮影した映像では、(シ文)川への道路(山道ばかり)が
山崩れにより転がってきた巨石により塞がれていて、
通行不能になっていた。
夜24時頃の映像では、
軍用機で都江堰市(百キロほど離れている?)に到着した温家宝首相は、
夜の広場で、すぐに関係者を集めて、仕事を配備した。
「歩いていても、早く被災地に行ってください。
 1秒でも被災地に着くと、助かる人がいるから」。


午後0:50分まで、まだ(シ文)川からの現場の映像や音声が入らない。


■(シ文)川はどんなとこ?■
九塞溝から遠くないのようだ。
成都から約150キロほど離れているようだ。
私は、(シ文)川に行ったことがないが、
同じくアバチベット族チャン族自治区である九塞溝には一度行ったことがある。
しかし、(シ文)川の地名に見覚えがある。
つい、しばらく前にも、臥龍の場所を確認するため、
地図で調べていたからだ。
そうそう、パンダの里の臥龍がつまり、(シ文)川にある。
パンダも地震に驚いて、恐怖のあまり、泣いていたのだろうか。


午後から現在までに、すでに余震が300回以上起き、
中にはマグニチュード6度以上の地震は3回もあったようだ。
真っ暗闇の中で、(シ文)川は不安な第一夜を迎えた。
どうか、人間地獄に落とされたと思っている人たちに、
光と希望を与えるよう、ただひたすら祈るばかりだ。


北京時間13日朝1時55分、CCTVの生放送はまだ続けている。

■五輪イヤーの中国■


私は弱虫に違いない。
とにかく、今年以来の中国の歩みを振り返ると、泣きたくなる。
雪害の中で、旧正月が開けた。製品や食の安全問題に
テロに騒乱。やっと聖火が国内に戻ってきたかと思うと、
今度は突然襲われる大震災。
一方、物価の上昇もあり、原油価格や工業品価格の高騰で
経済発展も大きなチャレンジに立ち向かっている。


しかも、この後、どのようなことが起こるのか、
まだ誰もが予想できない。


中国人があれだけ夢を託して、希望をかけている五輪大会が、
紆余屈曲の中での開催となりそうだ。
無事開幕できた暁は、大泣きする人がきっと多いに違いない。
しかし、今はまだ泣くのが早い。
歯を食いしばって我慢して、冷静さを保ち、頑張っていくしかない。


ミャンマーのサイクロンの被害にもたいへん驚いた。
思い出せば、中国人と結婚したミャンマー人の友達が一人いて、
今、ヤンゴンにいる。奥様に確認したら、幸い無事だった。


突然訪れてくる災害の前に、人間がこんなに無力なのだ。
くだらないことで喧嘩するのをやめて、
穏やかで、平穏無事の日常を楽しみ、
そして、それをありがたく思う気持ちを
忘れてはならないように思う。