虚惊一场:八宝山怪談

草木も眠る丑三つ時ならぬ夜12時30分。
職場を出ました。
場所は、北京で最も霊気の強い所の一つと言われている、八宝山。
かく言えど、超鈍感人間の私にとって、
これといった不便を感じることはありませんでした。


ただ、場所柄は場所柄で、近くに住民も少ないため、
夜が深まると、この辺ではタスシーが拾いにくくなります。
今日は幸い、玄関を出る前から、
タクシーが一台泊まっているを遠くから見えました。


ところが、です。


タクシーから5メートル離れたところから、
洪水のような巨音が聞こえてきました。
車内に薄暗いライトがついています。
運転手さんはうつぶせになっていて、顔が良く見えません。
紺色の制服を着ているようです。
近づいて、ドアをあけると、
ぼわわ〜〜〜〜〜〜〜〜と車内が振動する音が響き渡っていました。
何故や??。。。
そして、運転手さんは不思議なノートに何か書き込んでいたところでした。
何故や??。。。


「すいみません!」
とりあえず、大声を出して声をかけてみました。
と、頭を持ち上げて、運転手の顔が見えました。
くぼんだ目にくぼんだほっぺた、
頭にくっつくような元気のなさそうな髪の毛、
何よりも、口をあけた瞬間、下のあごの前歯が欠けていて、
黒い穴のままになっているのではないか。
ひゃ〜〜
驚きを抑えて、務めて平静に行き先を告げました。
そして、聞いてみました。


「運転手さん、何を聞いているのですか」。
ブヨンンン〜〜、ボワワ〜〜〜
スイッチは急いで消されました。
消してくれたのは良いですが、
大きな声で、答えが返ってきました。

「鬼故事!!」(お化けの話)


一瞬、肝が抜かれた思いをしました。
なんというタイミングなのか。
真夜中の八宝山。それだけでも、
運転手には告げられない行く先なのに。
それに、お化けの話がやってくる。。。
ひゃあーーーー!


しかも、
ハンドルを握った運転手の手は、
何故か、ボールペーンを握ったままになっている。
ボールペーンを握ったまま運転する人って、
先ずは聞ききません。
もしやして、魔法を使うのに必要なアイテムだとか???
こわ〜〜〜
得体の知らない人と一緒にいるのは、
自分にとって怖さが増すのみなので、
今度も勇気を持って聞きました。


「運転手さん、何でボールペーンを持っていますか。」
「ああ、さっきまで、ずっと宝くじの入選番号をメモしていたので。」


&*^%$##$$*()_!〜%


ああ〜〜そういうことだったのですか。
これで大丈夫です。
この人は確かに人間で、普通の運転手さんで間違いありません。


「そうだ。どこに行くんでしたっけ?」
こういう質問が出るとは。
「おいおい、これが客に対する言い方なのか。
 さっき教えたばかりなのに。」
心の中ではそう思いながらも、
なんだか、ほっとした安堵感から、いやに思うこともなく
丁寧にもう一度行く先を言いました。


■怪談好きな運転手


ところで、真夜中の八宝山で、運転手は何を聞いていたのでしょうか。


北京人民放送局の文芸チャンネル。
毎晩、夜中に怪談の時間があるようで、
それを聞いていたようです。
ところで、今日の話には運ちゃんはよっぽど不満があったようです。


「そこまで迷信で、愚昧な話があるのか。
 ばかばかしくてやってられない。
 子どもの教育に絶対悪いことを知らないのか。」


「こんな時間にラジオを聞く子どもがまずいないので、大丈夫ですよ。
 で、どういう話でした?」


「警察が1人しかいなく、
 タクシーが1台しかないある小さな町で、
 子どもが死んだ。
 その子が猫に変身して、町の人に拾われ、
 飼われるようになるが、飼い主の家の子どもが今度殺される。
 猫が次から次へと拾われ、
 飼い主の子どもが次から次へと死んでいく。
 警察もまったくわけが分からなく、途方にくれている。
 とりあえず、さっきはそこまでだった。
 もう、ほんとうにばかばかしくて。
 第一、警察1人、タクシー1台の町は、
 今、どこを探してもないこと…」


運ちゃんはむきになって怒っているようです。
しかし、こんな町で、真夜中に怪談を自ら進んで聞いたのに、
文句があるなんて、慰めようはありません。
話題を宝くじに移しましょう。


一株2元の宝くじ、毎日発売されているようで、
夜の8時半になると、結果が公表される。
「あんたの家の前にも宝くじを売るところがあるのに」。
そうだったのか。買ったことはありませんでした。


「毎月、多い時は20元ほどかな。昨日はラッキーでしたよ。
 2000元ぐらいあたったので。」


本当かうそかは、良く分かりません。
というのは、もし私が2000元も当たった場合、
飛び上がって喜ぶのに。
あまりに淡々とし過ぎています。
しかも、真夜中、響くようなボリュームで
お化けの話を聞いて、
おまけに、ボールペーンを握ったまま運転するなんて…
やれやれ〜


10分しないうちに、目的地に到着しました。


「私の家はあなたのマンションのすぐ裏なのよ。
 これで帰って寝るわ。」


「はい。お疲れ様でした!」


何よりも、いらぬ驚きで良かった、良かったです。