三日目の雪+「感動」の裏では

北京の雪は三日も降り続けたとは。
小雪でしたが、おかげさまで、大地は潤われたようです。



大西広氏の「チベット問題とは何か」を面白く拝読しました。
提言の部分も面白かったです。
問題の両面性をよく指摘され、視野を広げるのにとても役立ちました。
ところで、物事に裏表があるというと、
最近、反省していることがあります。


北京五輪の開会式で、「止めないダンスステップ」と題した
バレーのシーンがありました。
バレリーナの夢を抱きながらも、大地震で片足を切断された
少女李月さんが車椅子に乗り、中国のバレー王子と共演したシーン。
切断された少女の足に換わり、数百人のダンサーたちが
バレーの足の動きをし、踊っていました。
地震で粉々に砕かれた少女の夢を13億の力を尽くして、
優しくかなえさせてやりました。
少女もとてもよく頑張りました。美しく輝いていました。
感動しまくり、涙した人が多かったはず。
私もエッセーの中で自分の感動を綴っていました。


ところが、最近李月さんの近況に関する報道では、
一緒に退院した仲間3人の中、彼女だけは、
「イベントが多かったため、
リハビリの一番良いチャンスを逃し、一番、回復が遅い」ことが
分かりました。ショックでした。申し訳なくも思っています…


いや、何が大事だと考えるかにも受け止め方が違ってくるかもしれません。
きっと、五輪開会式での出演について、李月さん本人も悔いはなかったと思います。
ただし、私たちはあまりにも感動を求め過ぎているのではないでしょうか。
果たして、李月さんの長い人生の幸福を考えると、
どれが一番良い選択肢だったのでしょうか。
考えてしまいました。


もう一つ思い出した企画があります。
鳥の巣の建設工事に参加した農民工に、
自分たちが汗水を流して作った「鳥の巣」で観戦したいという夢をかなえさせるため、
あるポータルウェブサイトは「実現不能なミッション」と題した
ネット接続者参加型の企画でした。
みなが愛の心をささげれば、実現不可能なことでも実現可能になるのよと
いう趣旨の呼びかけです。
ターゲットはあるテレビ番組に出演したことのある芸達者の冷さん。
五輪施設の建設が終わり、実家に戻り、暇している貧しい生活を送っている農民工・冷さん。
自分の力だけではどうにもならず、夢はかなえることも到底無理です。
よし、みなで、旅費や宿代、チケットを出し合い、
彼の夢をかなえさせようではないか。
冷さんは青島省の貧しい村から、名も知らぬ人たちの助けで、
一歩一歩、北京に来られ、鳥の巣で観戦できた。
その一部始終が写真と文字で掲載されていました…


私もそこで感動しまくり、つてをたよって何とか、
北京に来た冷さん本人に直接会って話を聞くチャンスを得ました。


しかし、そこで知ったのは、冷さんの興奮と感動のほか、
「穴があれば入りたいと思った。
 こんなことはもう絶対二度としたくはない。
 私のぼろい家まで写真にとられ、
 ネットにアップされ、国中の人に見られている。
 こうなると知っていれば、どんな頼み方されてても、絶対来ない。
 途中、知った時、やめて北京に行くのをやめようと思ったが、 
 しかし、スタッフから泣き入りで頼み込まれ
 『イベントが始まったので、全国のネチズンに参加を呼びかけている。
  主人公のあなたが抜けては話にならない』、と…」という話も。


何よりも、驚いたのは、実家から出発したという円満な設定にするため、
企画者は、冷さんはバイト先の青島にいたにもかかわらず、
仕事を止めてもらい、実家に一旦帰ってもらって出発したようです…


「感動」に飢えている。
自分も感動物語にささやかなながらも力をささげることができる。
今の中国社会には、このような巨大な「感動」ニーズがあります。
企画そのものは、このようなニーズに答えたものだったと言えます。


しかし、果たして現実はどうなのか。
好意とやさしさは必ずしも良い効果を得られない。
何よりも、李月の体、一日も早くリハビリに良い効果が出るよう祈っています。
そして、リハビリの時間を犠牲にして参加してしまった以上、
五輪の開会式で受けた感動をぜひとも力に変えてほしい。
そう願うだけです。