14歳“孫悟空”のアメリカ留学

 “孫悟空”は広東語部同僚の息子さんです。
 自炊があまり好きでないようで、いつも一家そろって局の食堂で食事していました。小さい時、息子さんはおとなしく食事したことがなく、いつも食堂の中を駆け回っていたので、孫悟空と呼ぶことにしました。
 国慶節連休の初日、食堂でひさしぶりにご両親にばったり会いました。一緒のテーブルに座ってくれたお母さんは、強い広東語訛りで真っ先に報告してくれたことは、「孫悟空は7月からアメリカに行きました。久しぶりに二人の世界になりました」。

 7月に、北京市内の中学2年の期末試験を受け、9月からテキサス州のインターナショナルスクールの高校一年生になったそうです。母親がアメリカにいる友人に留学の話を聞いたのは今年の2月でした。まだ若い子をアメリカに送るべきかどうか。悩みもあったので、担任の先生に相談に乗ってもらいました。
 電話の向こうで、先生が話してくれたことは、「高校生の私の娘も今、オーストラリアで留学中です。あなたの息子さんはしっかりしていて、自分の頑張りたい目標に向かって努力しなければならないことを知っている良い子です。留学先に頼れる友達や親族さえいれば、早い内に子どもを海外にやったほうが良いと思います。何せ、そのまま中国にいさせても、受験勉強ばかりさせられ、子どものためになりません」。
 ???…(教育者の先生からそんなことを言うとは、聞いた私が驚いてしまいました。人の子を預かっている立場の人間の発言なのか…)

 先生をアドバイスを聞いた、母親は「ためらいがなくなり」、直ちに申し込みの手続きを始めたようです。
 一方、孫悟空自身の意欲はというと、「小学校2年の時から留学に行きたいとばかり言っていました。別に親から言われてもないのに」。そして、母親にも知られていなかった夢と目標があったようです。
 訪米ビザ面接試験の練習のための塾で、「アメリカに留学して、将来の目標は」と聞かれた先生の問いに、孫悟空は「エール大法学部に入る」と答え、傍にいた母親を驚かせました。息子にそんな目標があるとは初耳だったなので、帰り道にそのわけを聞きました。
 「大統領のブッシュもオバマもエール大法学部の卒業だもの。ぼくは中国生まれなので、大統領になるのは無理だろうと思うけど、州長ぐらいにでもなれればなと思っている」
 
 中国人がアメリカ行きビザを取得するには、全員面接試験を受けることが必要で、拒否されるという失敗の記録をパスポートに残さないため、留学仲介組織が面接を受けるための塾を主催しています。6回ほどのレッスンで、学費は4000元(約8万円)。
 「低学年留学生の面接は厳しくはないことを聞いているので、受けさせなくても良いのですが、やはり念のために受けさせておきました」。

 面接は6月に行いました。大使館に行くまでは母親同伴でした。大行列でした。午後2時から並び始め、終わったのが4時過ぎでした。面接官から英語で4問質問されました。
 ・父親の仕事は?/・何故この学校にしたか/・母親の友人はどこからこの学校のことを聞いたか/・将来の夢は?
 第三問はまどろこしい英語を使っていたので、三回質問を繰り返してもらったが、やはり聞き取れず、「すみません。中国語で質問してください」と頼みなおして無事答えられたそうです。合格か却下されるか、その場で結果が発表されます。母親は「待っている間は、もう大学受験の結果を待つよりも緊張していたのよ」と言い、幸い、2時間あまり過ぎてから、孫悟空は合格を意味する緑のバンドを手にして出てきました。
 父親が紹介するには、「今年はアメリカ留学の希望者がとりわけ多かったです。金融危機で物価が比較的安いようだし、アメリカとしてもたくさん留学に来てほしいようです」。そして、「受験という特定目的のための中国の教育にはうんざりした。子どもの本当の能力や創造力が重んじられていない」ことが子どもを留学に出した一番の理由と言っています。

 ちなみに、留学の学費は年間1万ドル。生活費込みで、年間所要費用は人民元10数万元になります。母親はためらいもなく、即「留学に出す」と決定したには母親なりの考えもあるようです。
 「いずれ留学には行くので、早く行ったほうが向こうの環境に早く適応でき、早くネイティブな英語が話せます。今のうちに頑張ってもらって、大学にこそ奨学金を取得して進学してほしい。今お金を多めに出すのは、将来出すお金が少なくて済むためなのです」

 孫悟空アメリカに行ってもう2ヶ月以上過ぎました。母親の友人宅に下宿している彼は「勉強はとても楽。授業の内容もとてもやさしく、宿題がほとんどない。遊ぶ時間はたっぷりある」とほっとしている様子です。幸い、アメリカの食べ物がとても美味しくて、大好きのようで、現地の環境にはすぐ適応できたようです。

 孫悟空のご両親は中国で普通に見える共働き夫婦で、決して高級取りではないと思います。そんな普通よりやや上の家庭でも普通に、大人になっていない子どもを外国留学に出す時代になっています。視野を世界に向けている点は評価できますが、自国の教育を徹底的にあきらめたという点で言うと、絶望させる動きかもしれません。